私のボランティアNO92  広瀬寿武
     (盲人の目と心の代わり)

毎年恒例のブラインドゴルフ、オーストラリアオープンが、10月後半に行われる。
今年は日本からの選手は1人が参加する。
私は日本人参加者の担当と、雑用を兼ねて大会の準備をしているが、今年は肝心の大会開催日の期間、息子の結構式のため、日本へ行き手伝いが出来ないので、事前に調整をしている。日本からの参加者は万全だが、困った問題が一つ、未解決のままになっている。
私のパートナー(全盲)Mのキャディを大会期間中、サポート出来ない。
当然、キャディ無しでの大会参加は不可能。
ブラインド協会役員と相談したのだが、夫々の担当選手を持っているのと、キャディのボランティアが絶対数、足りない現状にあり、未だ決まっていない。
(ブラインドゴルフのキャディ:平日であり、毎週毎週サポート出来る人。その為、若い人は皆無。平均年齢80歳を超える。ブラインドとはパートナーシップが最重要であるため、相手が決まると変わることは双方にとって不都合等々、厳しい条件があり、ボランティアも集まり難い)

Mには盲目に加え、精神的な障害が重なり、それが災いしてか、人との和が上手く取れない事もあって、キャディ達から敬遠される傾向がある。
ボランティアの中で、そんな事があっては不公平、差別的だと思うのだが、年間を通じて、毎週毎週、腕と心を繋いで共にゴルフするとなれば、ボランティアをする人も神では無いのだから、出来たら気持ちよく楽しい相手の方がいい。
Mのサポーター、キャディが安定して居なかったとき、私がボランティアに入った事情で、そのまま、長年、続いている、言ってみれば私とMの腐れ縁(Mにはナイショ)。
Mの、この大会に参加したい情熱が分かるので、私も何とかしてあげようと、現在も協会関係者に懇願しているが「今回はトシがダメなら、参加は無理だ」と以外にあっさりと冷たい。
そんな事をMには伝えられない私のストレスはどうしてくれるんだ、と。だが、なんとも進まない現状を感じているMの心配は、気の毒になる。

Mは朝から晩までラジオを最高の友人として、時にはラジオに向かって会話をしている。
「何か困った事があれば、電話をくれ。出来る事は相談にのる」と、或る番組。
大会に参加したい一心のMは早速、電話を掛け、大会に参加したいがと、事情を話した。
「OK,何とかしよう」と。
何とかなった!それも私のメンバースゴルフクラブのプロ。
私に伝えるMの声の音色には、その喜びが十分に溢れていた。
その週、ゴルフが終わってから役員に「プロのキャディを頼んだ」と、Mの得意げな顔。
夜、「トシ、Mのキャディの件で」と、大会会長からの電話。
プロゴルファと言っても、ブラインドゴルフの扱い、誘導等の経験が無い。その危険性も知らないだろう。簡単に依頼は出来ないから、Mと共に一度会って、趣旨を説明し、講習的な細部を教えて欲しいとの内容。
喜び勇んでいるMを失望させる事はできない。

その日、ドライブレンジ。
プロの「俺がコーチしてやるから心配するな」と、簡単に考えていた様子が分かる。
私が先ず、9番アイアンでMに打たす70m近く、右だが前へ飛んだ。
次にプロがMを自分のスタイルでコーチをするが、Mにはそれが見えない。
戸惑いながらのスイング。
ボールをセット。教えた通りに「OK」のサインでMがスイング。
ボールには当たらない。
数回のスイングでも同じ。(思いっきりのカラ振り)
「俺の言った通りにスイングを!」盲目のMにそれが分かるはずが無い。プロのコーチに「目が見えない」と言う感覚が無い分けではないだろうが?
プロの方に盲目の感覚が理解出来ない焦りのような表情が見える。
私がもう一度・・・、ボールは当たり前へ飛ぶ。

私達ブラインドのキャディはコーチではない。ブラインド達の「目の代わり」なのだ。
彼等の目の代わりになってボールを見、歩く足元を見、回りを見て神経を注ぐ。
目の代わりとは、当然、その気持ちも一緒だ。ゴルフが上手である必要は無い。目の見えないプレイヤーの目の代わりと動く心を見る配慮に優しさがあれば出来るのだが。
プロは余りにもプロ根性が前に出てしまい、心の目があることを理解しない。
それは無理からぬ事ではあるが。
「Mを引っ張り、カートも引っ張り、ボールを確認し、捜し、打たす。これは俺には無理だ。ゴルフなんかにはならんよ」と、一回で断りの言。
「まあ、そう言わずに、来週、もう一度お願いします」Mの代わりに、丁重に頭を下げる。
私が日本へ行くまで3回は出来る。
何としてもお願いをしなければならない。
何としても。
Mの参加したい気持ちを何とかしてやらなければ、と。
これも、私のボランティア。


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