私のボランティアNO90   広瀬寿武
(雨の季節)

生活環境の中で雨が降らなかったら大変な事になる、こんな理屈は誰でも理解出来る当たり前の事だ。が、朝起きて雨模様の空を眺めると、やはり憂鬱になる。人間なんて勝手な者だ。理屈と感情とは相容れない身勝手さが、世の中を面倒な状態にするのかもしれない。
私のボランティアも、この身勝手な感情がしばしば作用し身勝手に心をコントロールする。
JO’C(法人運営、精神障害者サポートセンター)はバス停から10秒〜1分以内の所に在り、雨具を持たないメンバーにとっては大変便利な場所だが、それでも雨風の強さによっては結構濡れる。
「オーストラリアの人は雨でも濡れながら、悠々と歩き、濡れる事を気にしないのか?」
私、日本人の多くは雨を避けようと走って物陰か雨宿りをするのが通常だったので、怪訝に思ったのが、ここに来た当初の出来事。
雨の日に傘を持った人も少ないし、持っていても何処か壊れているみたいな、余り役に立たない傘を平気で使用しているのにも驚いた。
だが、当地の雨や気侭な天候には「気楽」が良いのかもと最近思うようになった。
JO’Cのメンバーは洗濯をどのようにしているのかよく知らないが、臭いがするような服を着ている。雨に濡れ乾く過程で臭いが強くなるのに誰も気にしないが、私はつい気にしてしまう。そして風邪でも引かないか心配にもなり、タオルを渡すが「OK」とそのままでいる。余り風邪を引いたという話を聞かないのだから、私とは成長過程が違うのかもしれない。だが、精神障害者の多くは薬の為か、病気には弱いと事務所では気を使っている割には双方とも、何となく無頓着の様に感じてならない。
私の思いは、無用な関心ごと。でも、雨降りにはやっぱり気になり、タオルを持って追い掛ける。彼らと1日中一緒に過ごす雨の日は、すかっとしない。臭うのもそうだが、どでかい男達が部屋の中で何となくうろつくのは、うとうしいより、私自身落ち着かない。
観察していると精神障害者の何を考えているのか分からない動きには、独特の優雅さもあるが、彼等もやっぱり発散したいのだろう、座ったり立ったり、その内「トシ、ゲームをやろう」とほんの1〜2分間、真似事をする。
天気が良ければキングスパークを2~3時間歩くのだが「よし、プールに行こう」と私の方が我慢の限界を表現する
水遊びをしていれば2時間は何とかなる。温水プール、平日のこの季節、混んではいないが、彼等の水浴びは周りを気にしないので、ここでも私の無用の気遣い。
でも、周りのおばさん達は分かっていて笑っています。
雨の季節のほんの一時、笑顔に支えられ憂鬱さが消えた。

B/G(ブラインドゴルフ)これまた憂鬱なんて言うものではない。
自分のゴルフだったら出かけず、雨降りには家に居るが、M(全盲、片耳難聴)は雨風でも装備万端の雨具姿で、何時も私より先にゴルフ場に来ている。
毎年毎年、雨季でのB/Gは変わらない情景。
私のキャディ姿と言えば人には見せられない不恰好。雨つゆが首から入り込み背中や腹まで濡れるのを防ぐ為、分厚く首にタオルを巻きつける。まるで田んぼの中の案山子が与太付いている様な格好。それでも顔を伝わって流れ込む雨は、時には下着まで浸み込む。
風防をかぶれば、かえって邪魔になり、目の見えないMの手を引き、空いた手でバギーを引っ張り、Mの足取りに注意を払う、その所作の注意が散漫になる。先ずは事故、怪我をさせない事を最優先。
とにかく、雨と風、事故と怪我への注意、その戦いみたいなボランティア。そしてMを楽しませるとなると、やっぱり、雨は有り難くは無い。
それでもMは欠かさずやって来る。
「Mは本当に楽しいのかな?」と顔に吹きつけた雨の雫を拭いながら、余り楽しくない私のボランティア。


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