私のボランティアNO81   広瀬寿武
(二人で一人前の盲人ゴルフ!)

10月21~24日から4日間、2008年オーストラリア・ブラインドゴルフ・オープン選手権が、ここW.Aで行われる。
この大会に関わる役員は数ヶ月を掛けて準備をする。
オーストラリア各地はもとより、日本からも数人の選手が参加する為、日本人担当の私はそのスケジュール、滞在中のケアー等々と準備に日々追われている。
今回は日本から盲人を引率して来る人が都合で来ることが出来なくなり、ホテルでの世話や諸々の諸事を私が引き受けざるを得なくなった。
「日本語を理解出来る者が、トシしかいない」とこれだけの理由。
数年前にオージーゴルファーとキャディ、60人を日本へ引率して世界盲人ゴルフ選手権大会に参加し、約10日間、宿泊も共にした事を思えば楽なもんだが。
「盲人のゴルフ選手権大会」盲人が華々しくゴルフプレイに鎬を削ると言っても「まさか?」と即座に信じられない顔をする人が結構多い。
「盲人のゴルフでキャディのボランティアを週一回やっている」と言っても同じく信じない人が多い。
「目の見えない人が、どうしてゴルフなんか出来るのか?見えている俺だってまともに打てないのに。当たる分けがないだろう。もし当たったとしてもまぐれ当たりじゃないか。飛ぶ方向だって?」と至極ご尤もな質問と言うか、盲人がゴルフをゴルフ場でプレイすること事態を疑問視している様な言葉をよく受ける。見た事が無いのが普通なのだろうから、
一般的には「目の見えない人がゴルフを?」と理解出来ないのも仕方が無い。
そこで今回は盲人ゴルフとはどんなものか私の体験を記す。
ブラインドゴルフ:訳して盲人ゴルフと言っていますが、視力障害者が行うスポーツの中の一つ。他にも自転車、トッラク競技、パラリンピックでもお馴染みのスポーツが沢山有ります。磯釣り、カラオケと健常者と同じ事を楽しんでいると思えれば、ゴルフだって特別ではないと思えるでしょう。

視力障害者の障害の程度を盲人ゴルフではB1,B2.B3の3段階に分けて競技をする。B1 全く視力が無い。
B2 数メートル先(2~4m)は見えるが、キャディの付き添いが必要。
B3 10mの距離は確認出来るが、それ以上の距離が見える視力が無い。
   病気等の障害により、眼鏡を使用しても視力が回復しない。
もっと複雑な解説は有るが、理解し易く言うとこの程度。
だが1~3まで、どれでもボールの飛んだ先が自分では確認できないので
全てにキャディの助けが必要になる。
B2,B3はTグランド及びグリーン上で球を打つ時には方向と距離の指示を貰えば、何とか打てるし自分の感も働く。
B1は全く見えないので一人でゴルフコースを歩けない。
私はB1のキャディ。
私のパートナー、Mは障害を持って生まれ全盲の上、片耳難聴。
彼がゴルフ場の風景、コース等をどのように理解想像しているのか、長年、彼のキャディをしているのに、私の頭では未だ想像が出来ない。永遠に不可能な事だろう。だが、毎週、彼と一緒に、彼のキャディをやっている。
プレイ開始前に10~15分パターのテスト。Mは私の腕を捕まえて(触れてではない)ピンから色々な方向に歩く、歩かせる。Mの歩数と足の裏にグリーン上の微妙な変化を感じさせる。その変化は私が見たって簡単に理解出来ないが、フィーリングだけでも分かれば何かが違うと、私のキャディの六感。歩数で距離感を覚えさせ20球ぐらいを打つテストをする。私だってそう簡単に2パットで収まらないのに、でも、2パットでINする事を目的に「強過ぎる」「弱い」とパターの感覚を覚えて貰おうと、互いの葛藤。勿論、方向は私のキャディ感。微妙な気持ちの状態でパターの動かし方も違い一定しないが、その日の心の動きを見付ける観察が私のキャディ感を養う。全く見えないホールに向かって打つM,キャディの気持ちとMの気持ちの合体が全てと言ってもいい、緊張の瞬間。私はゴルフのコーチではない。あくまでも盲人の、それも全盲のキャディ。どんな人がプレイするにも、確かにゴルフテクニック(技量)は必要だろうが、全盲且つゴルフそのものを知りえない(形を見る事が出来ない)Mに誰がどのようにテクニックを指導出来るのか?
ただ、打たせる、何度も何度もMの感覚で、気持ちで打たせる。そのスイング、格好には全く無関係に。
パターのテストが終わればアイアンのスイング。私の2倍も有る様な頑強な腕で思いっきり振るのだから、地面に大きな穴が開く。Mもそれを自覚する。
「今度は11時の方向から触れ!」「次は10時!」「次は9時!」Mの感じている10時の方向と私の見る10時の方向には一寸違いがある。目が見えないと言う事はそう言う事なのだ。
キャディはそれを見越して違ったとしても「今のが、9時の方向だよ」と伝える。それにより力加減が減り、振るスピードがコントロールされ、球に当たり易く方向も大きくずれないし距離も期待に近づくことが多い。
本番は腕に掴るMと出来るだけ話をしながら歩く。「ここはラフだ」「ラフからは8時まで振り上げれば球は出るよ、簡単だよ」「後150m,ここからThree Onで行くか」
「いやOne Onだ!」「Two Onで良いよ」
キャディはThree Onを目指してキャディ感覚で腰と足を方向に合わす。
Mの振りで正常に当たれば150m(6番アイアン)は飛ぶが「木の枝が邪魔だから」とか、距離を短く知らせ、7番アイアンでパンチショットでと、時には騙しもある。
そしてTwo On。してやったり!
距離が長いと、どうしても『打ってやろう』と力む。それが見え見えだから、短いアイアンを持たせるために嘘を言う。これがMとキャディの私とのブラインドゴルフ。
何時も上手くいくとは限らない。短いアイアンでもやはり打ちたくなるのは誰でも同じ。
振り上げれば大きな穴だけ掘って、球は2~3m。その穴をアイアンで確認させる。伝わる感触で分かるから無駄な言葉は使わない。「これは私のゴルフでも同じ事、頭と身体がマッチしないのがゴルフだよ」と一言慰める。変化の有るコースの部分からアイアンのフェースを合わせたとしても振り上げれば身体が動く。その動きを計算して短く持たせたり、長めに持たせたりMとの呼吸を合わせる工夫を常にする。
盲目のMとのゴルフ、ブラインドゴルフとはプレイヤーとキャディの完全なる共同作業。
嘘が有ろうと、いい加減な言葉の言い回しが有ろうと、キャディは何時も真剣に工夫をしてプレイヤーを満足させようとする。何も見えないプレイヤーは安心して打つことに集中する。その結果は良し悪しに関わらず「Next Chance」の言葉に託す。
球に当たって当然ではない。当たらなくて当然から始まるのがブラインドゴルフ。
バンカー、私はパターを持たせる。意外と上手くいく。とにかくバンカーから出る事を工夫しての体験。Mはどのように出たのか見えないのだから「出た、出たよ」それだけで万々歳。パターが一番安全だが300mをパターでとはいかないのが残念。
グリーン近くのバンカーの手前が一番困る。歩かせて砂地に足を入れバンカーの大きさを感じさせるが、砂を踏む感覚は違うらしい。バンカーに入るか、遥か先に飛ばすか、工夫なんか無い。一か八か、ここから5打~6打。
9ホール終わるのに3時間。B1,Mのハンディは32.
それでも時々優勝する。トロフィーはMとキャディに同じもの。
Mとキャディで一人前だから。
ブラインドゴルフとは盲人プレイヤーが居るからキャディが居る。
キャディが居るから盲人はゴルフを楽しめる。
だから二人で一人前。

ゴルフを知っている、楽しんでいる人に簡単に盲目のスイングを感じてもらう方法。
1) よく方向を確かめて球にクラブを合わせる。
2) アイマスクし、そのまま一回転をして、もう一度クラブを持ち直す。
3) 球にクラブを合わせた時に何を感じるか。
4) そのままスイングしてみる。
5) 自分の体感(体の動き)と常時のゴルフでの体感の違い。


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