私のボランティアNO72 広瀬寿武
(障害者との長い一日)
私のボランティアではサポートする相手の生活環境に深く関わらないのが通常なのだ。
とは言え、一対一のサポート行動の中では、否が応でも関わらなければならない状況になる事しばしば。
ブラインドゴルフで、Mとは長い年数、プレイヤーとキャディ。
Mの生活状況はプレイに大きな影響を及ぼす。
知らず知らずの間にMの生活実態を知ってしまったが、これは私とMの連携に必要なことだった。
Mに私の使用しないゴルフシューズを提供。
ぼろぼろでボールやティが毀れ落ち、ポケットのチャックは殆ど動かないため、私の一つのバッグを提供。
カートは分裂状態で、私の修理では役に立たないので、これも、私のカートを提供。
ゴルフ道具は現在、ちょっとお目に掛かれない骨董品と言うより、捨てても拾う人が居ないような、錆びさえ見える代物。だが、Mは常に出来映えを気にする。そこで私の道具を提供。気に入ったのか「これは俺にぴったりだ」と、道具の違いが分かるらしい。
バッグに入れっぱなしの帽子は汚れと汗で臭いが漂うため、私が持ち帰りバケツに浸してから洗濯機へ。その間、私の帽子を提供。
全て私の「お古」なのだが、結構役に立っている。
このような状況を書いたお陰で「俺はこれだけの事をやっていると、いかにも恩着せがましく、自己顕示も甚だしいく、いやらしい」との批判を受けた。
このボランティア、Mを片手に誘導して、片手でカートを引き、定まらない方向に打った球を捜しながら、安全第一に、そしてMを気持ち良くプレイさせる長い一日。
これが毎週毎週1回、休みなしで続くので、キャディとして私の責任と、プレイ間の状況を考えない分けにはいかない。
Mの靴はプレイをするには、余りにも安全性を欠き、靴紐は繋ぎ目だらけで、しまらないだけではなく、時々脱げてしまう。全盲のMの歩行に危険を感じ、途中何回も履き直しをさせ、結ぶのだが、ままならない古さ。
Mの安全と、一緒に回る他の人とのプレイを気使い、そして私自身が集中出来るようにと考えて、靴を提供した。Mは家からそれを履いたまま、バスと電車を乗り継ぎゴルフ場へ来るので、途中、靴底のスパイクで滑らないように気を付ける、その心配も必要になる。
破れたゴルフバックと壊れかけているカートに気を奪われていると、Mの足元への集中が損なわれ、何処から飛んでくるか知れないボールへの配慮も失う。
安全第一のボランティアキャディが考えての提供。
道具類提供(アイアン、パター、ドライバー)も2人で一日を楽しむための一手段。
Mは道具、カート、バッグ等々をクラブハウスの倉庫(パブリッククラブ)に保管していたが、保管は自己責任のため、終わると私の車で我が家に持ち帰る(紛失の恐れがあり)。
汚れ物が入っていると私の車はもとより車庫の中にも臭う。
直接自分で道具等のプレイに必要な仕度を取り扱わないMが、具体的に自分の所有物について理解していないのも事実。私には無頓着にも見える。
「そんな状況にならないよう伝え、Mに考えさせ、責任をもたせるべきだ」と簡単に言ってくれます。
私はMのキャディ。Mの生活状況を知っています。一人キャラバンに住み、車で10分位の所に居る両親は父親が病気で、母親が看病の毎日。Mの部屋に緊急ブザーが設置され管理事務所や近所に連絡出来ます。買い物は近所の人が手伝い不自由はしないと言っているが?福祉の手当てで生活する状態。時折、Mの送り迎えをしながら、Mの近所の人とも顔見知りになり、話をするので「Mの事、有難う」とお世辞を使い、礼を言うことに違和感がないに付き合いなのに、それでも「靴を買え」「バッグを買い換えろ」「道具が古い」「カートがぶっ壊れている」等々、Mの私生活全般を気遣う親友、親族が居たら、きっと親切心で忠告に似た言葉を掛けてくれるだろうが、私の言うべきことではない。
(「金持ちの傲慢さ」だと言う人も居るが、不用物の提供が「傲慢」だとは?)
私の遠慮でもなければ、Mの無神経さでもない。見えないMと見えるキャディの間に流れる、電磁波みたいなものだ。
言う気にならないのも私の勝手だが、何も見えないMと2人で手を繋ぎ、ぶつぶつ文句を言ったり、褒めたり、宥めたりのキャディとプレイヤーとは、こんなものなのです。
一にも二にもプレイヤーの安全を考え、楽しんでもらえるように必要な為の行動を考え実行するのが、私のボランティアと私自身の認識。同時に私の能力で私のボランティアを続けるには、それも、出来るだけイージーな気楽さを持ちながらと考えた、私の為の一つの方法。押し付けでもなければ、自己顕示でもない。「金持ち」
身障者の心を思って欲しいと願う。
全盲のMは毎週一回のゴルフを、楽しみに楽しみに、待っているのです。
雨でも強風と思われる日でも、バス、電車と乗り継ぎ、白い杖を頼りに歩き、1時間以上を掛けて、ゴルフ場まで来ます。
私が道具を持っていかなければ、Mはプレイが出来ない、この関係が、まだまだ続きそう。
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