私のボランティア NO7 広瀬
目覚める寸前に見ていた夢が尾を引いて「何故あんな夢を」と,朝陽の漏れる先を
寝惚け眼が追う.
CFでの治療が今日で最後になるMrs R,何か気になっていたのだろうか.
先週「トシ,これ,奇麗でしょう」タンクトップからこぼれる様な掌大のバラの刺青.
この六週間,少しは知った彼女の生活.子供が四人,孫が二人,弟妹三人が同じ通り
に暮す,ブル−ムから来た大柄で色黒のR.
「ここにも 」車のシ−トからはみ出た太股を見せる.背中の半分位の真っ赤なバラ
内股の白さが色を鮮やかにしたのかも知れないが,まじまじと見る訳にもいかない.
何と答えようか,ヒュ−ズが吹っ飛ばない様に最大限ボルテイジを上げ,
頭のコンピュ−タ−を回転させる.
答えより先に反応した陳腐な疑問.
「孫が四人いるとしたら,お祖母さん?ガンの治療(毎日放射線治療)をしているのに.
子供,弟妹も心配しているだろうに」
「トシ,背中のバラはもっと赤いほうが良かったかな」
(色黒の背中に赤が冴える訳が無い)とは言えない.
「両方ともすご−く良い,燃えている様に鮮やかだ.ガンが花に姿を変えたのかもネ」
意味の分からぬ事を言いながら,私の理屈では理解できない現実に戸惑う.
「来週になれば色が落ち着くから,良く見せてやるよ」
「楽しみにしているよ.来週,退院だネ」
抗癌剤の為,坊主になった頭に曲線を作った指を撫で付け女の仕草を見せる.
ふと,刺青を入れる気持ちとの繋がりを想像する.
Mrs Rとの繋がりは今日が最後になる.こうして年間に何百人との繋がりが切れ
て行く.CFではガンと言う病気が私と多くの人を繋ぎ,切れて行った.
Rの刺青は習慣,文化の大きな違いを私の肉体の深層に問いかけた.
思考や理屈では理解出来ない事が,多くの全く異なる人達と心が触れ合うと感じる事
が有る.
「これは,この感じるものは何なんだ!理解?いやそんな観念的なものではない.
理解しようとする兆し,そう!理解の出発点」
Mrs Rがガンと戦いながら刺青を「奇麗でしょう」と誇示する.それを心に感じ
理解の出発点を見つけた私.
Rと私の間,人と人との間には媒体が無ければ「繋がり」を持つのは簡単な様で簡単
ではない.だが繋がりの必要性は誰もが認める.
私のボランティアは人との横の繋がの楽しみを求めているのではないか.
「繋がり」「繋ぐ」を求める関係には意志が有る.意志がエネルギ−を産みだし繋が
る事で理解の出発から先に進もうとする.
「なんだ!人との繋がりと,触れ合いで感じる楽しさに引かれてのボランティア.
結局は私自身のエネルギ−の元ではないか」
寝惚けた頭で理屈を捻っても愚の骨頂.「出掛けなきゃ」
シャワ−の湯煙にMrs Rの内股のバラが霞んで見える.
(CF,Cancer Foundtionの略)
X’masが近づきCFもO’Cもその準備で忙しい毎日.
これもボランティア,エンタ−テ−メント大好き人間の私には待ち遠しい.