私のボランティアNO57 広瀬寿武
(気象とボランティア)
私が関わるボランティアは全部、医療的なケア-が必要な所に所属し
ている為か、季節気象の変わり目は思わぬハプニングが起こる。
Mercy Care Centre(学校、病院、老人ホーム等を経営する宗教法人)
の老人ホームでは、暖房やエアコンの調整にも気を配る。気候や外
気温の変化に体調が即応しない。当たり前のことかも知れないが、
何の変化も無く言葉を交わし、世話をしていた老人が、翌週、部屋
を回ると、もぬけのから。週末に亡くなったと聞いて驚くこと、た
びたび。だが、中の老人達は全く意に解さないと言うか、気にも止
めていない様子。
「生きている今が人生、楽しもうよ」と昼飯にワインと歌。私の形
なりにでも沈む気持ちとの違いに人生観を極めた人達の凄さを知る。
O’ Centre(精神障害者のDay Careを主とする法人)のメンバー
(障害者を総称する)達も出歩く事が少なくなり、我々が散歩に連
れ出す機会にも、常に空模様との相談になる。公的補助を受けて生
活しているが、十分ではなく衣食にお金を使うにも事を欠く。
濡れたりすると着替えが無い。時折、我が家の古着や買った古着を
持ち込むのだが、有り余る程ではないのが現状。夏ならばTシャツ
にGパンで何とかなるのだが、この季節はここで6年を越すボラン
ティアをしている私の気の重さ。
でも、折り紙教室にダンス教室とメンバーに指先からドデカイ図体を、
少しでも動かすように明るく声を張り上げる。私のキャラクターに
は抵抗無く着いて来るからスッタフ達も私任せで、又、楽しいボラ
ンティア。でもやはり、精神的な繊細な部分は気象の変化に影響さ
れる事が多く、私、スタッフ全員が気の抜けないこの季節。
Blind Golfは雨風無関係で行われる。以前にも書いたが、片手で
盲人ゴルファーを、片手でゴルフバッグを引くため、傘は使えず、
顔を伝わる雨水は首から容赦なく、全体を水浸しする。
「どうして、こんな日にやるのかな?」と腹の中では不満が溜まり
キャディの役割がいい加減になり、失敗を繰り返す。
「トシ、後少しだ、頑張ろう」と励まし気を使うのは私のパートナー
盲人ゴルファーのM。主客転倒とはこの事。曇り小雨状態の重々し
い空気の流れを体で感じながらのゴルフ。Mは生まれながらの盲目、
片耳難聴、それに脳障害も併せ持つ。
3年以上共にフェアウエーを歩きながら怒ったり笑ったりの、殆ど
彼の脳障害を意識しない楽しい一日を過ごして来た。だが、気象の
変化は私の知らない所で彼の内面にプレシャーを与えていた。
突然、変化が、どうしたのか、何故か全く解らない。地に伏せ、
動かなくなった。
救急車を呼んだ。協会の副会長が同乗、病院へ。3年間で初めての
経験。気が動転した。数年前にも2回ほど有り脳障害の影響だと説
明された。
見舞いに行こうと思っていたら、母親から「退院して、来週はゴル
フが出来るから、お願いします」と電話が来た。
会長のトムに相談したら「いいんじゃないか、本人が出来ると言う
のだから。キャディのトシに会えば元気が出るさ」
こんな気楽な返事、相談にもならない。
その週、Mが居た!「心配したよ、大丈夫か?」「おおトシ、会い
たかったよ」私に背を向けてはしゃぐMに回り込んで抱き合い、
彼から新たな気を貰った。
先週、優勝!今私の脳裏からはMが脳障害を持っていることなんか、
すっかり忘れている。
又雨、二人で濡れながら、何処へ飛ぶのか、飛んだのか解らない
ボールを追っかけ、濡れ手拭でMの顔を拭きながら、自分のパンツ
まで沁みた雨水の冷たさを忘れての私のボランティア。
「だけどさ、Mの掛ける真っ黒なサングラス。土砂降りの雨に濡れた
顔を拭く時、邪魔なんだよな!」
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