私のボランティアNO56
 (85歳のボランティア)        広瀬寿武   

O’Centre(精神障害者を対象とした、Day Care及び相談を受ける
法人組織)では毎年、冬、雨季になると、Outingの計画に頭を悩
ます。外歩き、運動で寒さや雨に濡れた場合を考える必要が有る。
障害者の症状はさまざまで、日により、時間によっても一定しない
のが通常だが、社会復帰を目指し、医師の許可を得、病院を退院、
その訓練を兼ねている人達。全く違和感を持っていない私だが、
職員達は常に注意を怠らない。どんな症状、精神状態の変化にも対
応出来るようにしている。
週一日の私のボランティアとプロとの違いをメンバー達(障害者達)
もボランティアの気楽さとプロの厳しさを、はっきりと認識してい
る。だが、人間同士、厳しく時には怖さを感じる職員より、私の
キャラクターと気安さに仲間意識を持って接して来る。それに70
歳と言う年の功は狡猾さの経験をも含め、それなりに役立ち若い
職員より近寄り易いく、安心するのだろう。狡さの自信は、既に
6年を越える、ここでの様様な経験をしたボランティアの日々に有る。
現在、私より古い職員は二人(30代1人、40代1人)後は1~3年未
満。それに若いので社会経験と狡さでは私の方が遥かに上だと思っ
ている。
「私のボランティアが必要か?」とmeetingで聞いてみた。
「トシはスペシャルボランティア、メンバーも我々も頼りにしている」
煽てられて、色々な計画の立案、実行には担当者の一人にされる。
私の様な我が儘気侭な人間には「頼りにされる」その事が重要な意
味を持つ。いい加減な人間が身心共に無償の奉仕をし続けるには、
自分で自分を励まさなければ、長い年月、マンネリ化にもなり、無心
の奉仕が出来ない。奇麗事ではない私のボランティア。
6月から私の担当はメンバーからの要望で、午前11~12時まで1時間
「折り紙教室」。しぶしぶ受けた。案の定、早速女房から「お目玉」
「そんな安請け合いをして!大体、貴方、折り紙を出来るの?」
災難は安請け合いから。夕食後、晩酌の後の特訓は辛いの一語。
後悔先に立たずとはこの事。前日までに覚えの悪い不器用な指でも
何とかなり、広告を折り紙代わりに切り揃え(折り紙が勿体無い)
用意をした。頼りなさに貶されている私を見ていた娘が「私、明日
一緒に行って上げるよ」百人力。娘様様。
偉そうに言っても、この家族の協力が有っての私のボランティア。
娘も女房もO’Centreのメンバーには既に馴染みになっている。
14人が教室に集まり始めたが集中していたのは30分程度。飽きる
のも早い。
「直ぐ何処かへ行っちゃたり、立ったり座ったりで集中しないよ。
お父さん、来週から30分にしたら」
今は毎週30分教室。トシ先生の奮闘をよそに、相変わらず集中し
ない。「10分でも興味を持てば、意義はある」そうだ?何とか出来
た飛行機を飛ばしはしゃぐ姿を見て私の忍耐力の無さも感じた。
午後1~2時までダンス教室。「トシ、私と一緒に行ってよ、お願い」
マルポチャ短足嬢(職員)S「ダンスは出来ないけど興味があるの」
と自分の興味に合わせて探し回った、ダンスルームとボランティア
をしてくれる教師、その努力には敬服する。きっと、メンバー達の
事を思う一心だったのだろうと、賛辞の言をあえて加えた。
即席のダンスクラブのメンバーは11人(男7女4)。我々の為にだけ
開かれた閑散とした広いボールルームの大きな鏡の前で、場違いな
所に居る様で落ち着かないメンバー達。黒いズボンに蝶ネクタイ、
背筋を張って歩く姿は既に踊る身のこなし、舞うような白髪の男性
が現れた。我々のボランティアB氏。私より2〜3歳位年上かと思っ
たが、何と85歳。信じ難い。
「ダンスは健康にも精神的にも大変良い。先ず背筋をしっかり伸ば
す」B氏の指導には正に目を見張る。精神障害の病を持つと知って
いる素振りは全く見せず、だが、全員に目配りする自然なプロの配
慮はメンバー達を安心させ、自分達のダンスには程遠いステップを
気にせず集中し、楽しむ姿にほっとした。
ダンスになるのか、ボランティアの教師に迷惑を掛けないか、正直
集まったメンバーの顔ぶれを見て、Sも私も不安が有った。
体重が100kgも有る巨体、動きも侭ならないR( 要運動と医師から)
鬱ぎみのJ、集中するのが苦手なK等々を連れての試み。だが、85
歳のB氏は一人一人の内面まで理解しているのか、状況に応じ、
冗談を交えながら手をさし出し、肩を支え、鬱には笑いを、飽き性
には相手を変え、巨体には体を寄せ、複雑なステップを簡単にする。
「休憩するか?」「時間が勿体無い、続けよう」何と鬱のJ。
私とSは顔を見合わせ何とも言えない嬉しさに心が震えた。
一回や二回で簡単にステップを覚える分けがない。でもダンスクラブ
のメンバーはまだ、一人も欠けないで続けている。出掛ける前にセン
ター内で、ステップを披露することもあり、ディケア-センターは
笑いで溢れる。
私の集中困難な「折り紙教室」と85歳のB氏の興味を引き付け、
集中させる「ダンス教室」。
ボランティアと簡単に解するが理屈を抜きにした自然な奉仕の心、
その新鮮な風を強烈に私のボランティアに吹き込んでくれ、一芸の
技に秀でたB氏の人間力に深い感銘を受けた。
まだまだ、未熟な私のボランティア。

因みに一番動きがもたついているのはマルポチャ短足S嬢かな!


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