私のボランティアNO54
   (賞と偽善と葛藤)    広瀬寿武   
三カ月のブランクが終わり3月10日から11月末まで、6年度のBlind
Golfが始まった。
水、木曜日のボランティアは休み無しだが、暫く金曜日のボランティアが
無く、自分の為に使う時間が充実し始め、楽しさが身に付いてしまった。
今日から又、金曜日は「駄目か!」と思うと、目覚めと共に気が進まず、
億劫さが先行した。事前に受け取った手紙には是非出席するようにと有り、
同時にMの黒メガネと白い杖、とんでもない方向を向いて私を待っている
姿が、思い出さなくても良いのに、頭に浮かび「行くか」と面倒くささと
葛藤しながら車を走らせた。
クラブには既に今日の日を待ちわびていたのか、大勢のプレイヤ−とボラ
ンティアの黄色いユニホ−ム姿が、声高に沸き立っている。
「しまった!ユニホ−ムを着てくるのを忘れた」億劫さが緊張感を欠いて
しまった心の緩み。瞬間に責任と義務感が身を襲い、一日のボランティア
に危険を感じた。盲人のゴルフキャディは一挙一動に最大の注意と緊張感
を要求される。参加する全員が怪我もなく楽しくプレイ出来てこそ、完璧
なキャディボランティア。
やっぱり、少し遅くなった私を心配して待っていたMの手を握り、久し振
りの挨拶を交わした時には、自身の怠慢な億劫さを完全に諫めてあった。
Mの一打に、コ−ス上の一歩に緊張感を持って神経を配り、初日のコンペ
はMの優勝。単純にただただ嬉しい。Mの手を引き大勢の間を縫ってカップ
受け取りに行く、その誇らしかったこと。見えないMに私の顔を見せてや
りたい「Mのお陰で、私の心は満たされた。有り難う」の笑顔を。
今朝の目覚めに感じていた、あの「面倒くさい」感はどこかえ飛んでしま
ていた。全くご都合主義で気紛れな私の感情、これはこれからも変わる事
はないだろう。私のボランティアは凡凡人で有るが故の葛藤で始まり、気
紛れ単純な喜びで満足する.
初日のパ−ティには協会関係者、会員、ボランティア等々大勢が集まって
盛大に行なわれた。
聞きたくもないお偉方の挨拶をお世辞顔で我慢していたら突然
「トシ、壇上に出てこい」呼び出しのアナウンス。
全く予想していなかったと同時に、前後の話の内容をいい加減に聞き流し
ていたので、どっきとして咄嗟の動きにも戸惑いを覚えた。
殆ど名前も覚えていない、お偉いさん達(顔は見たことが有る人、言葉を
交わした人)の私を擽ったい言葉で持ち上げる言葉を、身の置き所のない
気持ちで聞いていた。
一人が首に大きなメダルを掛け握手、次に額に入った賞状を受け取り握手、
最後に金色のプレ−トにT、HIROSEと何やらを刻んだ盾を受け取り
握手。
スピ−チをと要望され「どうして私が表彰されたのか理解できないが、多
くの人の協力と励ましで現在私はここに立っています。有り難う」
「トシはボランティアとして多大な協力をしてくれ、ブラインドの人達に
楽しさとやりがいを与え、親身になって尽くしてくれた。今年は全員トシ
を推薦した。昨年はベストキャディ賞、二つのメダルを誇りに思ってこれ
からも協会のボランティアを続けてほしい」会員四千人を持つ協会。
回りからの賛辞が時間と共に現実味を感じさせ、恥ずかしさに照れながら
貰った賞を抱え、家に急いだ。早く妻と娘に見せたかった。
私は協会でただ一人表彰されたのです。嬉しい気持ちは事実だが。
今朝、気持ちの中であれだけ駄々を捏ね、億劫、面倒、怠慢、我ままと葛
藤して、やっと出て来た私のボランティアを、この中の誰一人も知らない。
賞の価値に値するのだろうか。深層の偽善は?

4月は世界盲人ゴルフ選手権大会が日本で有り、私は日本人で有るが故の
単純な理由で世話係兼雑役係兼役員役でオ−ストラリア選手28名を一人
で引き受けることになり、日々準備が忙しい。
もしかして、もしかして、こんな役を押付けるための賞だったのかも。 

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