私のボランティアNO48
 (夢分析)  広瀬寿武

そこの山道には雲が垂れ込め気温も急激に下がり始めた.これ以上先に登
る体力を計りかねている私に「体力知力の限界を考えろ」タイガ−ウッド
が気の毒そうに声を掛ける.
「お前には負けないから、余計な心配するな」ピョント岩を飛び越えた途
端に躓き、転がると思いきや宙に舞い、谷底に敷き詰められたマットの上
に、いとも簡単に下り立つ.
沸き上がった拍手に呼応して、振る私の手も肉体も全て透明.
パ−5、打ったゴルフボ−ルは海を越えてワンオン.グリ−ンまで泳いで
いるうちに目が覚めた.

夏目漱石は「夢十夜」の連作短編で自分の夢を書きとっているが、現実的
には「夢の記録」を字面に変えるのは馬鹿げた作業に思える.
書き出しの数行の夢戯言、どこかおかしく、つじつまが合わない、飛躍も
甚だしい記録.これを記録する行為に、そもそも矛盾が有る.
夢を見ているはずの私は睡眠状態に有り、夢の移行、情景を写生するよう
に写実するのは不可能な事だ.目覚めと同時に消えてしまう夢の記憶を呼
び覚まし、推移しながら記録をした所で、現実の思考に邪魔される.
 
無駄で意味が無いような思いは常に有るが、だが、夢は良く見る.時には
恐怖を感じ魘されるような、又は艶かしく卑猥な、そしてSFの力量を超
越た夢物語と、もし記録出来たら数百冊の本になるだろう.
「夢は無意識へいたる王道である」フロイトの研究によると「夢とは無意
識の願望を満たすものだ」と「願望充足」の傾向を発見したと有る.
ユングもまたフロイトの著した「夢判断」に共鳴して夢分析の研究をして
いる.
夢は私に何を告げようとしているのか、二人の学者の分析判断を参考にし
てみる.
書き出しの支離滅裂な夢の中身を「私なり」に分析をしてみると、結構、
面白い.
無意識な夢の中には想像を絶する膨大な記憶、感情、願望等々がファイル
せれているが、コンピュ−タのデ−タベ−スのように整理されていないの
で、学者の教科書を読んだ位で理路整然と書き上げる事は無能な私の出来
る技はないが、ほんの少々、こじつけの分析を発見した.
テ−マの「私のボランティア」で考えると.
最近、70歳が見え近づいたここ数年、体力知力、それに伴う能力が、自
分でもはっきり意識出来るほど衰えてしまった.それ以前から人に勝る能
力を持ち合わせていた訳ではないが、日々の生活に折り合いを付ける事
は出来ていた.週3〜4日の「私のボランティア」も、その一部.
水、木、金、日曜日のボランティア.
月、火、土曜日(2日は生活に関わる雑用、女房の機嫌取り等)の一日だ
けが私の自由時間.

精神障害者センタ−でのボランティア.特に違和感も苦痛も負担も感じず
気楽に無事に一日を過ごしている.だが、家に帰ると掴み所の無い疲労感
に見舞われる.差別をしているとは思わないが、日常生活では全く気にも
しない些細な事にも神経を使う.例えば先の尖ったボ−ルペン、鉛筆等を
目に見える所に置かない.私物は身から離さないか、事務所に保管、事務
所を出入りする度に、必ずロックをする.精神傷害と言う病状に対する万
全な注意を怠ってはならないのであって、人に対する疑い的差別とは意味
が違う.そして彼らの行動ペ−スが私の行動、思考ペ−スと大きく違うか
ら、私が彼らに合せる.それも合せてやっていると感じさせてはならない.
もし、私が彼らと違うとプライドを意識したら、態度に出てしまう.
だが、不完全、未熟、無能な私の精神を分刻みで、どのように調整してい
るのか、私自身気づく余裕なんか持ち合わせていない.
疲労感の根源は私自身の肉体的体力の衰え、精神的貧困、知的回転の鈍さ
なのだと意識出来るから「腹が立つ」

車椅子の老人を専用車で運ぶ.座席にシ−トベルトで固定した場合と車椅
子専用車の運転は技術的に違う.当然専用車の中で車椅子は固定されるが、
人に掛かる遠心力、重力等の影響で比重の掛かり方が違う.それに車椅子
を利用する人の体力も弱っているケ−スが多い.
特に老人となると「骨粗しょう症」状態でもろく折れ易い.
そそっかしく気短な私は、前をのろのろ走る車がいるといらいらして口に
出して罵倒したくなる.だが車椅子専用車は、その、のろのろ運転そのも
の.コップの水が零れない運転を強要される.    
普段はスピ−ド違反ぎりぎりの所で気分上々なのだから、慣れない運転は
心身に負担が掛かる.病人の症状を気にしながらの運転は息苦しささえ覚
える.
Blind Golfでは体力の余裕の無さを痛感する.Playerに神経を集中させて
いるので、時々、自分の体がよろけて「おっとっと」と.
こうして体力知力、加えて忍耐力までもが情けない状態になると、今度は
反対に意地でも自分の「負」の部分を認めたくない.
例え転んでも「一寸した弾みさ」誤魔化して納得した事にする.
私の馬鹿さ加減は天上を知らず.

夢の中で岩を飛び越えた途端に躓き転んで谷底え、だが透明の肉体は、
いとも簡単にマットの上に降り立つ.
体力と知力不足が原因で抑圧された悔しさ、陳腐な負け惜しみ、願望が
偽装した形で夢の中に出た.
ユングも脱帽する見事な夢分析.
何時まで続くか「私のボランティア」と「夢分析」

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