私のボランティア NO46
  (2Oセントコインの誠意) 広瀬寿武
  その1

自分の誠意を相手に伝えたいと思っても、実際にはなかな思うように伝わ
らない.特に言葉だけでは、表現に心を配り、優しく美しく言葉を操って
見ても、その半分も相手に伝わらない事が良く有る.反対に相手の誠意も
私に伝わらなくて、歯がゆい思いをさせる様な申し訳ない出来事も有る.
だが、ちょっとした行為、行動で人の誠意が明確に伝わり、感動を共有し
合う事も出来る.

「ちょっと風は冷たいけど、快晴で良かったわね」
十時半過ぎ、妻は日曜の空いている道を、ややもすれば70kmのスピ−ド
でSubiaco Oval(SO)まで送ってくれる.
「天気で良かったな」私の思いは日本人会のゴルフコンペに向いていた.
(楽しんでいるだろうな)(まあ、この次が有るさ)
腹の中は何となく中途半端な欲求不満がくすぶり続けたままの快晴日. 

数週間前にAssociation for the Blind of WA (ABWA)から、
Guide Dog Geme(GD)Collecting、要するに盲導犬を飼育、教育訓練等する
為の資金集めを手伝ってくれと、半強制的な?要請が有り、当日のゲ−ム
Westen Bulldogs対Fremantle Football Clubの入場券が送られて来た. 
オ−ジ−フットボ−ルにはあまり興味は無いが、話の種にと券を懐に集合
場所へ向かった.

「盲導犬クイ−ル」の叙情的なTVドラマが話題になり、盲導犬について
その存在価値を評価する人も多くなった.しかし、平常の生活からは無関
係な所の活動なので、現状では関心が薄いのも事実.比較の問題だが、
それでもこの国ではボランティア組織、公的、福祉関係者、支援者(団体)
等が、人々の関心を得る様に、様々な活動をしている.   

GD−小犬はボランティアのfosterに12カ月預け飼育される.その中から
GDに適性な犬(ほんの数%)が選ばれ、約18カ月トレ−ニングされる.
だが、その全てが完成されたGDになれる訳では無い.
手塩に掛けて小犬を飼育して、忍耐と愛情を持って徹底的に指導訓練の期
間を経ても、GDとして視力障害者の目となって役立つのは少ない.特に難
しい事は、障害者とGDとの間の相性.教育指導を超えた心の問題は
New owner とGDの出会いから始まる.
双方が共に助け合える、完成されたGDになるためには犬の懸命な訓練に耐
える努力と、多くの人の長い時間を掛けた協力が必要.
そしてこれに掛かる費用は、GDとして適性な犬を飼育訓練する事も第一条
件だが、経費コストも第一条件.
How much dose it costs?-it costs $25000 train a GDs. The training of
GD is funded through donations and individual sponsorships.
多大な経費を必要とするが、その殆どは人々の好意的寄付と援助に因って
賄われている.
そして人々の記憶に絶対留めて起きたい、私のボランティアで書き忘れて
はならない偉大な人間の心.
「GDs are given to owners FREE CHARGE」
想像を超える人間と犬との忍耐と努力、多くの人の援助と寄付.この全て
がGDを求める障害者に「無料」で与えられる.

背中にも腹にもGDの宣伝が所狭しと書かれたグリ−ンのユニホ−ム、首に
ぶら下げた大きな身分証明、そして、これ又GDのポスタ−を派手に張った
大きなバケツ.
「こんな大きなバケツ?!?」驚きよりも苦笑が先立つ.
集まった40人(男性5人)のボランティアが夫々、振り分けられた所定
の場所に移動.
私とS(20台後半と見受けられる、陽気な美人?)は線路側のGate26.
と言っても結構広く、人が並べば5〜6列は出来そう.ボランティアが絶
対数、足りない.
試合の開始は 2.30PM.その3時間以上も前からバケツとポスタ−を全面に、
持ち場をうろつくが、人影がさっぱり.バケツの大きさを感じながら不安
が背中に溜まる.Sは煙草を銜えてひなたぼっこ.
12時近くになり「トシ、お腹が空いたから何か買いに行って来る」と居な
くなったが、なかなか帰って来ない.
まだ閑散とした大きなオ−バ−ルの切り立った壁の影が、私の気持ちを代
弁するかの様に人の来るのを待っている.
「まだ、来るわけないよな」余計に大きく感じるバケツに慰めの独り言.
ふと、影が通り過ぎた瞬間、20セントコイン数枚がバケツの中で弾けた.
「Thank you」の声がやっと出たときには彼の後ろ姿.
大声でもう一度の彼の背に「THANK YOU!」
サングラスの笑みと片手を振ってゲイトに消えて行った.
最初の、初めての好意の20セントコイン4枚が、バケツの底で私を励ましている.
「有り難う」心の中で彼の後ろ姿を思う.
良かった.嬉しい.有り難い.本当に有り難いと思う、この感動.
私の物になるお金では無いのに、ボランティアで寄付を集めているだけな
のに、どうしてこんなに、純粋に、有り難く心に響き、感動するのか.
人の優しい好意が我が身を潤した一日.その豊かさに礼を尽くす為には、
もっと深く、意を込めて書かなければ、バケツを満たしてくれた感動の山
に申し訳ない.
そして私のボランティアも寂しくなる.

 続く.

ボランティア日記TOPに戻る