私のボランティア NO33
  (一寸した配慮と自己責任)   広瀬寿武

 イラクの人達の為にボランティア活動をする、善意の人達が拘束された
ニュ−スは、ボランティア活動、NGO等に問題を提起した.  
他人の為を思う善良な心に触発されてのボランティア活動.その価値は重
く尊い.今回の出来事は表面的には尊い事故、犠牲と思われる部分を隠せ
ない.だがどんなボランティアにも自己責任、自己管理が必要十分条件で
もある.その為に活動をする人には、一種の事情、限度を見極める人間力
が要求される.
だが完璧を求められ、ボランティアする人の能力の高さを要求されては、
我々凡人の善意が削ぐわれる.とは言え責任、義務感、自己管理は大事な
条件で有る事に変わりはない.今回の様なイラクと言う特殊な環境には一
般的に考えても、当然ながら配慮が必要だ.
「善意」の旗印を掲げても「迷惑」の旗の大きさを忘れては、善意そのも
のに傷を付けてしまう.
称賛されるべき善意の行為も、ただ、自分の主義、信念を通そうとすると、
大小に関わらず社会環境に影響を及ぼす.
善意な心や行為の価値、意義、役割を論ずる以前に、人間社会に迷惑を掛 
けない、自己責任に対する配慮を考える余裕も必要だと思う.
一寸した配慮、一寸した優しさが善意の心に勇気を満たす.

「言うは易く、行なうは難し」
私のボランティアの中で日々現実味の有る諺.

前回も触れたがAssociation for the Blind of WAに駆り出され、二ケ月が
過ぎた.
ボランティアマネ−ジャ−の抉れた胸の膨らみに惑わされた訳ではないが、
誘導尋問の罠に落ちてしまった.
断わり続けていたし、当日もそのつもりでの面接.彼女も承知の上.
雑談20分
「トシ、日本食のレストランは何処がお薦めなの?」
「じゃ、今度連れて行ってよ.何曜日が良い?」
「そうなの.毎週金曜日はフリ−なの」

「釣とかゴルフとかするの?.それともオ−ジ−フットボ−ル?」
「週二回もゴルフをするの.好きなんだ」

「クレャモントゴルフ場は近いの?」
「歩いて五分位だと、よく練習に行くんでしょう」

「実は毎週金曜日、クレャモントゴルフコ−スをホ−ムコ−スとして、
ブラインドゴルフを行なっている.キャディが足りなくて困っているんだ
が、どうだろう、やってくれないか」
時間が無いとも、ゴルフが出来ないとも、遠いとも言えない状態.
「自信が無い」「大丈夫、コリアパ−ククラブで講習が有るから.受ける
だけ受けて、それでも駄目なら無理にとは言わないから」

当日、15人のボランティアと13人の盲人ゴルファ.新人キャディは私
一人.講習と言ったてコリアクラブのプロが盲人にコ−チをする.
「フォ−ムを示しても盲人には見えないので解からないよ.体に触れて感
じを伝えて欲しい」と付き添いの盲人クラブのマネ−ジャ−.
「こんなコ−チはしたことが無い.難しい.先ず頭の中でイメ−ジしても
らわないと」
「見えない、見たことがない事柄を、どうやってイメ−ジするんだよ」
「じゃ、どうやってコ−チをしたらいいのか、教えてくれよ」
プロのコ−チが困惑して、自分自身を笑っている.私はその腹の中が解か
る様な気がした.ボ−ルが何処へどれだけ飛ぶかより、ボ−ルにクラブが
当るのか、それが問題だ.
妻は「まともに玉が当たらない、面白くない、や−めた」とゴルフをしな
い.目明きの妻が.
そしてイメ−ジと言う言葉に強く拘わり、どの様に自分の頭の中を組み立
てたら良いのか、困惑どころではない.
バンカ−の微妙な砂の傾斜、グリ−ン上の、フェァウェ−全体の、コ−ス
のアンジュレェ−ション等々、視覚の中に存在しないものに対するイメ−
ジとは?
私達は赤色を言葉と同時に的確に色覚上で表示出来る.言葉の意味合いは
理解するが(信号が赤だから危険だ)視覚のない彼等の赤とは、はたして
どんなものなのだろうか.
全く見知らぬ世界を「目明きの言葉」で何処まで理解させる事が出来るの
か.ボ−ルは触覚で丸いと認識出来るが、コ−ス内の組み立て構成、例え
ば、枝とその茂り具合、グリ−ン前の意地悪な傾斜、池の前後の様子等々
どんな言葉で説明したら的確なのか.
私にはおよそ、見当もつかない.それでもゴルフをしたいと集まる盲人達.
以前に受けたアイマスクで目隠しをした講習、目の見えない感覚で得た体
験で、日常の恐さ、危険、不便を感じ、その手助けになればと単純に思っ
ていたが、実際に彼等と共に行動すると曖昧な事だらけなのに気がつく.
私を指導してくれる先輩達は(65〜75歳)平均5年以上の経験者.
二回の講習では先輩の一挙一動、一言に全神経を集中し吸収しようと努め、
三回目にはMのキャディを命ぜられた.三年程のゴルフ歴.
Mは先天的なブラインド、右耳は難聴.体格は私を遙かに凌ぎ、腕っ節、
その筋肉は私の倍は有る.四十六歳、いたって陽気な性格に私の緊張は少
しだけ和んだ.先輩の一挙一動一言を参考にとトレ−ニングを始めて、直
ぐに、単なる参考にしかならないのに気がついた.それぞれ性格、能力、
障害の程度、性別が違い、Mには彼の為のキャディにならなければ、私の
ボランティアは勤まらない.
ティ−グランドに立つ、それ以前にパ−トナ−との信頼関係を作る.Mの
癖、歩き方、そのスピ−ドの加減、気持ちの動き、心理的な変化を感じ取
る等々、途轍も無い情況に対処しなければならない.途中で止める訳には
行かない.左手でカ−トを引き、右腕に捕まるMを誘導し、コ−ス、距離
を説明しながらの奮闘.コ−ス内の歩く一歩一歩の足場は決して容易いも
のではない.目明きの私には全く気に止めた事もない当たり前の変化も、
Mの歩みに合わせ私の足の触覚と視覚の神経を忘れたら、転倒、事故に繋
がる.当たり前が当たり前でない、今まで使った事の無い神経の回転は、
まさに奮闘(そんな事も知らなかったのかと人に言われたが、凡人以下の
私の感覚の中での体感は無かった)ボ−ルを探し、立たす方向を定め、彼
の振るクラブにぶっ叩かれないため、大声を上げOKを叫ぶ.
ナイスショットでなくとも次のショットに気持ちを落とさず向かえる様に、
一瞬の閃きで言葉を探す.
奮闘、また奮闘、無茶苦茶奮闘、見る人はその形振りを「アホみたい」と
笑うだろうが、Mが少しでも上手く、楽しくゴルフが出来るよう、慮りの
奮闘.
「どうやって盲人と?」「特別なコ−チの方法が有るの?」と聞かれるが
この奮闘を微細にわたり表現する言葉が見つからないと同時に、私の貧困
な言葉で表現するのは、奮闘そのものが可哀想に思える.
先輩達もそれぞれの能力でパ−トナ−の一振り一振りに、全力で心を伝え
る.奮闘の優しい心がパ−トナ−の気持ちと融合して、共に喜ぶ.

ゴルフをする盲人達の、そして回りの人達に配慮してキャディをする、
自己責任の意義を奮闘の中で常に意識をする.クラブを振るタイミング、
自分にも回りの人達にも事故が無いように、万全の注意をはらい、全神経
を注ぐ.Mの一挙一動は全て私を信頼してのもの.プロでも難しいと言っ
た盲人達のゴルフ.出来るだけ楽しく、そこそこ上手く、達成感を味わっ
てもらう.そのための互いの信頼は90%、プレイ技術は10%.
とは言え夫々にハイスコアを目指して競う面白さを忘れてはいない.
女性も6〜7人.みんながシスタ−と呼んでいる小柄なナン(尼)が手を
引かれ、ゴルフを楽しむ姿の不思議な新鮮な感動.
「シスタ−がゴルフをやるんだ!」
こんな馬鹿げた疑問を持った、私の余りにも貧困な社会的人間観を恥ずか
しく自嘲してしまう.

「来週は来れない」釣に誘われていたので、何故か躊躇いながら申し出る.
「それは困った.どうしても駄目か?」キャップテンにじろっとのぞき込
まれる.「OK、来るよ!」「良かった、ありがとう」 
「釣を断んなきゃ」と妻に不満そうに言うと「自分の責任でしょう」
自己責任の重さをしょいながら、気持ちの調整に戸惑いを覚える.
そしてか細い私の腕に、がっちりとMの指が食い込む重さに負けじと、
私の心を彼に滲ませ、キャディ?のボランティアが続く.

妻が通りがかりに、ふと我々のゴルフを見たそうだ.
「ブラインドの人を連れて止まったり動いたりする姿は、ほのぼのとして
とっても良いよ.あの人達が楽しそう」
「そう見えたか」と気持ちが喜び「文句を言わずに来週も行こう」と結ぶ.

Blind sport and recreation programs
swimming
golf
tandem cycling
indoor and lawn bowls
croquet
gymnasium
fishing
tenpin bowling
他にも幾つか有るが、盲人達が健常者と同じように人生を楽しむ為に、多
くのボランティアがサ−ビス、サポ−トに協力している.
「それぞれのクラブでみんなどうやって楽しんでいるのだろうか」
何時か他のクラブにも参加してみたいと好奇心が湧く. 

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