私のボランティアNO115 広瀬寿武
(キャディも癖ある人間)
オリンビック期間は深夜までTV観戦。時差の違いで毎日が寝不足。
老齢の寝不足は精神的にも影響が出る。
特にBGでは神経を張り詰める為に疲労度が大きい。
精神的、肉体的な疲労のため、盲人のサポートをしながら、危険を覚える。
「今日は休もうかな」と思うが、事前の連絡をしない、急な自分勝手は、盲人のパートナーに迷惑をかける。
盲人達は週1回、楽しみにしてBGに集ってくる。キャディが居なければプレイが出来ない。それを思うと無責任な自分勝手は出来ない。
全神経をフル回転して、一日を無事終了すると「ほっと」する。
私のパートナーM婆ちゃんは7月の中ごろ、家の中で転び、左肩を脱臼、右腕を骨折、額を数針縫う、大事故を起こし、年内はリハビリを兼ね、ゴルフは出来ない事になった。
これ幸い、私のキャディ業も休みか?と、内心で気楽な想像をしたが。
「来週からインデアンのBのキャディを頼む」
やっぱり な、と、糠喜び。
インデアンBは63歳、40歳過ぎに大病で失明。何回かの手術の結果、1~2mの距離を光と共に追う事は出来るが、Tグランドにセットしたボールは見えないと言う。
だが、若い頃、HCPがシングルだったというのが自慢で、今まで何人かのヘルプしているキャディの双方で、気持ち的にマッチングしない。
同じグループでプレイをする時に横で見ていて「彼のキャディはしたくない」と思っていたのに。どのキャディも「トシ、頼むよ」と気の毒を交え、彼の偏屈さから開放された笑いで肩をたたく。
彼のスイングは確かに年季が入っているのが良く分かる。だが、多分、失明前の自信が失明後の種種の変化を受け入れないのか、シングルHCPのプライドが「キャディの目」(アドバイス)を信じないのか、時々キャディに苦情を言う。
これではキャディも気分が悪く「勝手にどうぞ」となる気持ちが良く分かる。
初日、私は出来るだけ彼の言う、彼の好きにさせた。ボールの位置に立たせ、方向と距離、ロケーションを指示し、彼の望むアイアンを渡し、私の肩につかまる彼の手の力を確認し、話をし、コースをゆっくり歩き、Bのスイングの癖と気持ちを理解するように努めた。
ゴルフにならない散々のスコア。
「楽しかったか?」
「これじゃ楽しい分けがないだろう」
「そうだな、私も楽しくなかったよ」
「じゃ来週は、もう一寸だけ、楽しもうよ」「OK」
「私はコーチではないので、テクニック等の指示は出来ないが、Pの目の代わりは出来そうだから、お互い研究しようよ」
次週まで私はPのキャディをどの様にしようかと、思い研究した。これが上手くいくかどうかは全く分からないが、考える楽しさが私のボランティアに加わった。
81歳のM婆ちゃんのキャディでも同じく考えて、楽しむことは同じだが、特にみんなの嫌う、意思疎通もままならず、偏屈でプライドが高く、自信過剰なPを優勝させたら、面白いだろうなと、次週が楽しみになった。
Pへの想いでオリンピックの画像が無意味に目の中を掠めていく。
その日、天気は朝5℃、寒い、だが、快晴。
スタート、クラブを、気持ちクロスにかまえさせ、Pの2m先に手を広げ方向を指示。
Pは先にあるグリーンの方向なんか見えるわけがないので、スイングの癖から一週間考えた方法。本当の方向とだいぶ違うが、引っ張り込んでもブッシュには入らない、2打目が打てる位置を目指した。
大成功!2打目も同じく私の指示方向と、貴距離は少し長めに。自信過剰で、短いアイアンを指定するPの癖を逆利用。難なく2オン。グリーンがバンカーの先にある場合、又バンカーが見えたら、1打を無駄にしても方向が違っても安全な方向へ。時折「本当にこの方向か?」と。全く気にならない嘘。バンカーに入ったら「ギブアップ」
そして私勝手に「3パット」を目指しての秘策。
「トシ、フラットか?どっちに曲がるか?カップサイドのコンデションは?」
「見えないくせによく言うよ、私の目を信じろよ」と内心。
パタースイングには自信が有るのだろう、もしかして私より上手かも知れないが、目が見えないのは致命的なはず。だから、Pが見えないことを良いことにして、どうせ見えないのだから、私のフィーリングで打たす。
予定通りの3パット。それなのにPは不満の小言。
聞いて聞かぬ振り。今日はキャディの私のゲーム。終わるまではPの苦情は聞こえない。
偏屈な抵抗にも、疑いにも知らん顔。
さて、結果発表、優勝!ボール3個ずつの賞品。
昨夜の寝不足が吹っ飛んだ一瞬。
「トシ、来週もキャディをやってくれるか?」
Pの偏屈もプライドも、そのままの感謝の気持ちが伝わってきた。
「ああ、面白かった、愉快だった」
人間どうし、だから面白い。
私のボランティアはこうして又来週に続いて行く。
BG: Blind Golf(盲人ゴルフ)
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