私のボランティアNO102 広瀬寿武
(天の理、相性)
10月から12月にかけ多忙な日々に追われ、夜になり一息付くと眠さに襲われ早々に眠ってしまう。それが又、ぐっすりと良く眠れるのだから「神経の疲れではないよ」と女房に慰めか皮肉られる始末。だが、この歳で「神経」と「労力」を「浪費」している自分を「馬鹿だ」と思いつつの日々であることは確かだ。
ボランティアとは言え関わっている私のボランティアは、どれも身勝手が出来ない。楽をするには辞めるか、他の気侭なボランティア団体を探すか、結論は明解なのだが。
加えて、邦人コミュニティの長まで押し付けられたボランティア、これが又余分な心労。
「長」ともなれば、大体ですよ「天皇誕生日」とは、単なる「祝日」としての意識しかないのに「祝賀式」へ身なりを整えて参加し「祝い」の顔をする、内心とのギャップ、偽善者面を隠しての「乾杯」の義務。日本人としての意識に欠けているとお叱りを受けるだろうが、本音です。
本音の日本人である私の意識は「私のボランティア」の方が強いように思う。
「無責任、ちゃらんぽらんな日本人」と言われないように、日本人である意識が働く。
全豪ブラインドゴルフオープンが事前準備から、事後片付けまで無事終了。
今年は日本からの参加は無かったが、全豪はもとより韓国、ポーランド、カナダ、等全7カ国が参加。
パースでは今年初めての「極暑、37℃」の二日間。会場は三ヶ所のゴルフコースに分散。
私達の体調はまだ良いが、韓国、ポーランドの選手には「気の毒」としか言いようが無い。
韓国は-2℃と。約40℃の寒暖の差は彼等にしか分らない辛さだろう。
私は一月半前から「V」シニア女史のキャディ。Jは脳手術で今年のゴルフは休場。Nは足の甲が破傷風に冒され手術、靴が履けない悲しさ。
今年は「やっと気楽になった」と思いきや「トシ、Vのキャディを頼む」と直ぐに会長からのメール。
勿論、Vと言葉を交わしたことは度々あるが、キャディとしての経験は皆無。
「V」はブラインドゴルフ暦15年、今年79歳、5年前に病気の主人に先立たれ、毎週のゴルフが何より楽しみにしているシニア女史。
左が義眼、右目は光の中で2~3Mは見える(B1)ので、私の背中を見ながらゆっくりとした歩調で歩けるが、ゴルフ場の状況で私と腕を組む。
ヒップの大きさに加え、バストが私の腕を圧迫するほど大きい。背丈は私と変わらないが、体重は?いたって元気で大らかな女史。
「トシ、今年の大会には私のキャディを御願い」「OK」と二つ返事。
私には全く違和感がない、まさに無意識の性が合致する「楽な相性」
彼女の家が我が家から車で15分位の所にあり、送り迎えも苦にならない。
彼女は結構大きな平屋にガイドドック(GD)「盲導犬」と共に暮らしている。
戸籍調べはこの位にして、プレイヤーとキャディ。
6週間、相性の探り合いで理解が深まり、私に意欲が湧いた。
「トシ、プレッシャーが無く、信じて出来る楽しさは15年間で初めて。楽しいわ」の小声。お世辞も交じった、心の繋がりは「Vを優勝させて、喜びのキスをしよう」とVにも伝心。
Tグランドで2~3m前に立ち(人影が見える距離)大股と開き両腕を高く上げ(万歳の如く)「この方向に打て」と指示。周りが「トシに打ち当てろ!」と野次る。立ち位置はVの癖に合わす。Vのスイングは90%左に飛ばすので右に向かせる。「リラックス」の言葉を忘れずに小声で掛ける。二人の間では、この小声が大事なのだと勝手な理解。70%OK.
ドライバーで70~90m、真っ直ぐ飛べば先が読めて来る。4~5打でオン可能。
さてパターは、距離に関わらず、ブラインドに取っては一番難しい。見えない方向、距離をコントロールさせる為の良策、知恵の持ち合わせはない。
79歳の女史の気分、調子が重要になる。(目明きの私だって、2~3打パットは通常)ここで今までのキャディ経験と違う心理が働く。
シニア同士の男女間の微妙な愛がグリーンの上で優しく交わる。
私とVだけの間でしか読み取れない、言葉以外の「大丈夫だ、打て!」の信頼。
これが「相性」なのだと、悟る瞬間。
Mにも、Jにも、Nにも他の誰にも経験しなかった「相性」
この結果「全豪ブラインドゴルフ大会」B1の部門、第一位「優勝」
夕方から始まった表彰、パーティでテーブルの間を縫うようにゆっくり、プライドの笑みを一杯、腕を密着させ、バストの豊かさを満喫しながら、Vを表彰台にエスコート。
私にも優勝キャディ盾。
「信じられない賞です。トシを信頼した楽しいゴルフでした」Vの優勝挨拶。
多くの人が席まで来て「おめでとう、秘策は何だ」「教えられないわ」
Vの見えない目に光る雫が流れ、そっとハンカチーフを渡す。
Vとのキスは愛のキスなのか?相性のキスなのか?
強烈に、人と人の間に有る「相性」を意識して感じた私のボランティア。
「相性」とは人間生活の中で根底を流れる重要な部分なのだが、意識しないで上手な人間付き合いをしようとする。
「相性」「縁」とは理屈、道理で解明出来ない人生に与えられた天の理なのか。
人生とは面白い。
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